白井 晃


  本来リーディングドラマと言うのは、新作の戯曲が発表された際、本公演にかけるかどうかを検討するために、試公演という形で上演されるもの。俳優は台本を持ちながら朗読し、きわめてシンプルな上演形態で戯曲の世界を試行する。
 そこで、今回のこのリーディングドラマでは、自分が将来上演してみたい作品をどのような形で具現化するかを試す、と言う側面に重点を置いた。また見る側がどのように受け捉えるか未知数なもの、という観点から日本ではまだ上演されたことがなく、私自身まだ観たことのない作品をピックアップしてみた。
 「フォーエバー・ワルツ」は、ギリシャ神話のオルフェウスの話を髣髴とさせる現代の愛の物語。登場人物たちは自分が生きているのか死んでいるのかも分かっていない。零れた記憶の断片を集めていきながら、自分たちの身の上に起こった愛の物語を呼び起こす。
 まるで詩のように言葉の断片で綴られていく物語は美しく魅力的だ。それは、単にリアルな会話ではなく、時として、死者と生者の会話であり、時間と空間を飛び越えた会話であったりもする。演劇ならではの作劇手法がユニークな作品だ。三人の男女の物語はシンプルではあるが、登場人物の間に起こった事件をさかのぼっていく過程は、人が記憶の糸をたどっていくようでスリリングだ。それは、まるで死者の脳細胞の中に取り残された小さな物語掘り起こす発掘作業のようでもある。
 人と人が触れ合った感情の記憶は、化石のように残ることもなくはかなく消えていく。時間とともに波にさらわれるよう、跡形もなく消え去ってしまうものだ。
 果たしてこの物語が、聞き手の観客にどのように伝わるか、私自身大変興味深いところである。

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