ヒトラーが台頭し始めた1930年代のドイツ・フランクフルト。
大学でドイツ文学を教えているジョン・ハルダー(西村雅彦)には家庭内の悩みがある。
彼を溺愛している母(銀粉蝶)は病気で入院中、しかも彼にわがまま放題。妻のヘレンは妻や母の役割を果たさず、もっぱら好きな読書とピアノに没頭する毎日。彼は毎日子どもの面倒から、夕食の支度までしなければならない。
ヘレンはこんな自分はハルダーに捨てられるのではないかと不安を覚えている。
彼はそんな妻に「愛している」「別れたりしない」といい続けなければならない。
自分の母と妻の折り合いの悪さも悩みの種。だが、彼は誰にも打ち明けられない。
 
ハルダーは親友であるユダヤ人医師モーリス(益岡徹)に、自分の妄想について相談する。
日々の暮らしのドラマチックな場面になると、なぜか楽団や歌手が登場し、その状況を表す音楽を奏でるという妄想にとりつかれている。頭に鳴り続ける音楽。その状況に応じて、気ままに登場し、演奏する幻の楽団。
現実と妄想の区別がわからなくなっていると訴える。
モーリスは、自分がユダヤ人であることで、ナチスの反ユダヤ主義により、自分がフランクフルトにいられなくなるのではないかという深刻な悩みを抱えていた。
親友同士悩みを打ち明けあうものの、会話はすれ違う。

そんな状況のある日、ハルダーの講義を受ける女子学生アン(野村佑香)から、このままでは単位が取れないと相談を受け、その夜自宅に彼女をよぶ。夜遅く雨でずぶ濡れになって現れたアンに、彼は恋をしてしまう。
アンも以前から彼に恋心を寄せており、二人はお互いの愛を確かめあう。

ハルダーにもナチスの手は急激に伸びてくる。彼が書いた老人問題を扱った小説が、その意図に反しナチスに認められてしまったためだ。彼にはナチス入党について若干の迷いがあった。ユダヤ人排斥が引っかかっていたのである。
しかしアンの意見を聞き、二人が一緒にいる限り、廻りで何が起ころうともかまわないと決心し入党する。
彼はやがて自分がナチス親衛隊(ナチスのエリート集団)に所属したことを知る。
そしてそこでナチスの将校フレディ(宇梶剛士)と知り合い、友情を育てていくようになる。
ヒトラーが掲げた「ドイツ政府に対して兵を挙げるようなことはしない。良心に反するような命令は決してしない」という方針を高らかに謳い上げる。

ハルダーを取り巻くさまざまな状況。絶望する母、夫とアンの関係を感じながらも愛を告白するヘレン。
抜き差しならない状況のモーリス。そしてアン。
一方ナチスの体制は完全に強固なものになっていく。ユダヤ人の虐殺計画が実行され、ユダヤ人および反社会分子を集めた収容所の調査命令がハルダーにくだる・・・・・。