ブロードウェイで、映画で、数多くのヒット作を放ってきたニール・サイモン。
この「ビロクシー・ブルース」は、自らの少年時代、兵役時代、そして作家としてデビューするまでを描き、同時代人がみな通りぬけてきた青春をふり返る自叙伝的作品の3部作、その第二弾です。第2次世界大戦の足音が近づく中、貧しいながらもたくましく生きる少年時代の彼と家族を描いた第1部「ブライトン・ビーチ回顧録」は1983年ニューヨークでオープン。3年間のロングランを続けました。パルコ劇場においても1985年9月上演され、大好評を博しました。そしてこの第2部「ビロクシー・ブルース」は20歳の兵役時代の彼と仲間たちを描いたもので、1985年トニー賞ベストプレイに輝いた作品です。
ユジーンに、当時舞台・英が・TVいずれを取っても進境著しい若手俳優のホープであった真田広之を、彼の5人の仲間たちに天宮良他日本のヤングアダルトオールスターキャストを配し、鬼軍曹に実力派秋野太作を迎えてお贈りした「ビロクシー・ブルース」。この年のベストプレイの登場と、話題になりました。
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 ミシシッピ州、ビロクシー。新兵訓練キャンプのある町。1943年、20歳の主人公ユジーン・モリス・ジェロームは5人の仲間とともにこのキャンプに召集される。乱暴者のワイコウスキー、クルーナー歌手を夢見るカーニー、まじめなセルリッジ、黒人との混血児ヘネシー、そして年中胃腸をこわしている本の虫エプスティン。性格も生まれも育ちも異なるこの6人が放り込まれたキャンプでは、鬼軍曹トゥーミーの地獄の特訓と理不尽なイジメが待っていた。初めて体験する彼らの軍隊生活は、悲愴で、滑稽だ。時には傷つけあいながらも自己を発見していく6人の仲間たちの3か月が、日記を書き続けるユジーンの台詞をかりて描かれていく。
 ユジーンの最大の関心は相変わらず女の子とセックス。兵隊相手の娼婦との念願の初体験、そしてダンスパーティーで知り合った理想の女の子との初めての恋が、さわやかに甘酸っぱく語られる。男たちの軍隊生活を縦糸に、ユジーンの初体験と初恋を横糸におりなすニール・サイモンの世界。絶え間ない爆笑の中、見る者は、いつしか人生の重さに胸を熱くするのである。
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「ビロクシー・ブルース」劇評

 (略)「ビロクシー・ブルース」はサイモンの自伝的な作品で、作者の分身らしいユジーン(真田広之)という作家志望の青年が新兵の訓練を受ける話だ。鬼軍曹トゥーミー(秋野太作)と六人の新兵。精力絶倫で動物的な男もいれば、歌手志望の頼りない男もいる。規律と服従を強制して、論理も人間性も無視する軍隊教育にとまどう若者たちの姿が描かれている。
 鬼軍曹ものは、アメリカ映画などでおなじみのものだが、サイモンは笑いとやさしさで包んでいる。ユジーンが商売女によって初めて女を知るときの期待と恐れ、ダンスで知り合った少女に恋をするときのもたつきようを描いて、そこに青春の甘美な追憶が感じられる。軽いキスだけで終わる初恋の場面は、はじらいやたじろぎ、夢といったものが表現されて、ほほえましい。真田広之には適度な甘さと清潔さがあって、人気があるのもうなずける。
 この芝居で重要な役割を持っているのが、新兵のエプスティン(新井康弘)だ。知的だが体の弱いエプスティンは、軍隊の非人間性に徹底して反抗する。ヒーローでもなんでもなく偏屈でがんこで、しかし人間の尊厳を守ろうとがんばるユダヤ人だ。新井康弘が屈折した人間像を表現して、うまい演技をみせる。
 芝居は、鬼軍曹とエプスティンの対決で大詰めを迎える。個人の尊厳を踏みにじる権力を象徴していた鬼軍曹が、一転して哀れな姿をみせる。戦地で受けた傷がもとで、一生を退役軍人病院で過ごすことになって、鬼軍曹の心が崩壊をする。軍隊の残酷さが改めて印象づけられる。サイモンのみごとな作劇だ。(略)(展)
朝日新聞(夕刊) 昭和62年2月9日

個性的な若い俳優のエネルギー
 主人公ユジーン(真田広之)が新兵仲間と訓練キャンプのあるマサチューセッツ州ビロクシーへ軍用列車で向かう場面から物語は始まる。「ブライトン・ビーチ回顧録」に続く、ニール・サイモン自伝3部作の第2弾。  6人の新兵たちを待ち受けていたのは鬼軍曹トゥーミー(秋野太作)による訓練に名を借りた猛烈なシゴキ。権力のシンボルでもあるトゥーミーの前で、6人は各人各様の反応を示す。克明に日記を書き続け、傍観者の立場を捨て切れない作家志望のユジーン、粗野そのもののワイコウスキー(伊原剛志)、ホモセクシュアルであることが発覚するヘネシー(天宮良)、そして理論と理性を重んじ、軍曹の理不尽な命令に反抗するエプスティン(新井康弘)など、それぞれが個性を際立たせ、軍隊生活に苦しみ戸惑いながらも、若者たちが人間として成長していくさまがよく描かれている。  ともすれば暗くて重くなりがちなテーマだが、6人のテンポのあるやりとり、進境著しい真田の軽妙な演技が、しばしば笑いを誘う。娼婦(黒田ひとみ)との念願の初体験、ダンスパーティーで知り合ったデイジー(速川明子)との淡い初恋も客席をなごませる。  物語は、トゥーミーが退役軍人病院送りとなり、権力vs個の尊厳の図式が崩れたことで思わぬ展開を見せ、若者たちが3ヶ月間の訓練を終え、再び軍用列車でそれぞれの部隊に送り込まれるところで幕となる。若い俳優たちのエネルギーが辛口の喜劇を引き締めたほか、作者のもう一人の分身といえる反骨の男エプスティンを気負わずに演じた新井が光った。演出は青井陽治。(富永 俊治記者)
産経新聞 昭和62年2月10日
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◆STAFF
作 ニール・サイモン
訳・演出 青井陽治
美術 朝倉 摂
照明 吉井澄雄
音響 高橋 巌
衣装 坂本聖子
舞台監督 小川 亘
演出助手 菅野こうめい
演出部 萬宝浩男 菅野将機 若松和重 小笠原修一
大道具制作 原 恒雄
小道具制作 布田栄一
照明操作 浜 照男
音響操作 井上正弘
大道具 俳優座舞台美術部
小道具 東宝舞台株式会社小道具部
照明 A.S.G
音響 新音
ポスター衣裳協力 東京衣裳
履物 神田屋
製作 増田通二
制作 山田潤一 橋爪貴志子
制作助手 内藤美奈子
企画制作 パルコ・翔企画

◆CAST
ユジーン 真田宏之

エプスティン 新井康弘
セルリッジ 梨本謙次郎
カーニー 柄沢次郎
ワイコウスキー 伊原剛志
ヘネシー 天宮 良

ロウェーナ 黒田ひとみ
デイジー 速川明子

トゥーミー 秋野太作
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