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INTRODUCTION
STORY
CAST&STAFF
 時は15世紀、共にエドワード三世(1312〜77)の血を引く王族の両家、ヨーク家とランカスター家との間でイングランド王位をめぐって激しい戦いが繰り広げられた。大多数の貴族はそのどちらかについて戦い、王位継承をめぐっての様々な私利私欲の絡んだこの内戦によって国は乱れに乱れた。ヨーク方は白薔薇を、ランカスター側は赤薔薇を紋章として戦ったことから、この戦乱を指して“薔薇戦争”と呼んだ。
 10数年にわたる血で血を洗う戦いの中で、ヨーク方はランカスター方に決定的な勝利を収め、エドワード四世が位につき、天下はヨーク家のものとなり、ようやく平和が訪れたかに見えたが、国王の末弟リチャードの心は収まらない。浮かれきったかりそめの平和に生来のはみだし者の心はふつふつと煮えたぎる。世の中の全ての快楽を片っ端からぶち壊すべく、自ら悪党となることを心に決め、権力の頂点をめざし、様々な謀略をめぐらすリチャードであった。
 彼はまず“G”を頭文字とする男が王の血筋を根絶やしにするという予言があったと言いふらし、次兄のクラレンス公ジョージ(George)がその人であると王に吹きこむ。リチャードはロンドンの街上でロンドン塔に護送されるクラレンスに出会うと、表面は彼に同情する風を見せ、これは王が悪いのではなく、グレー卿未亡人で現王妃のエリザベスとその弟リヴァーズ伯の仕業であると言う。待従長ヘイスティングス卿も同じくエリザベスらに陥れられ、王の愛妾のショアー夫人に赦免を哀訴嘆願しているのだと、王室の乱れた人間関係を吹聴するリチャードであった。クラレンスが連行されていくと、今度はロンドン塔から釈放されてきたばかりのヘイスティングスが現われる。彼の口から王の病が重いことを知らされたリチャードは、この世をわがものとするためには、王の死より前にクラレンスを亡き者にしておかなければならないと考える。
 その後リチャードはアンを喪主とするヘンリー六世の葬列に出会う。ウォリック伯の末娘アンは、ヘンリー六世の皇太子エドワードの妃で、彼女の夫も義父もリチャードの手にかかって殺されていた。アンにとっては怨んでも怨みきれないリチャードだが、彼は自分の罪を告白し、こうなったのも全てアンの美しさのせいだといってアンを口説きにかかる。甘く激しく愛の言葉を繰り返して、ついにはアンに剣を渡してこの胸を刺せと迫るリチャードに、最初は呪いの言葉を浴びせていたアンも心を動かされ、リチャードの指輪を自らの指にはめてしまう。まさに思い通り事が運ぶ様に、リチャードは笑いが止まらない。
 王宮に入るとリチャードは、王妃エリザベス、その息子のグレー卿、リヴァーズ伯らをなじり、蔑み、言葉巧みに自分の正統性を主張していく。そこへヘンリー六世の未亡人マーガレットが現われ、彼れのいがみ合いをほくそ笑み、リチャードやエリザベスらに激しい呪いの言葉を浴びせかける。
 一方、ロンドン塔のクラレンスは、恐ろしい悪夢を見たと、ロンドン塔指令ののブラッケンベリーに語る。そこへリチャードが雇った二人の刺客が現れ、嘆願もむなしくクラレンスは惨殺されてしまう。
 病身の国王エドワードは、宮廷内の平和を願い、エリザベスらと、ヘイスティング、バッキンガムらを和解させる。リチャードも表面上はにこやかな和解の場に加わるが、その後でクラレンスの死を王に告げる。王は激しい自責の念にかられ、憂いの中で歿する。
 エリザベスとヨーク公未亡人(リチャードたちの母)は、王の死を悲しみ、自分たちの境遇を嘆く。さらに王位を継承することになった幼い王子を迎えにいったリヴァースとグレーが、リチャードとバッキンガムの手によって拘禁された知らせを聞くと、わが身の危険を感じ、王子の弟の小ヨークを連れてヨーク大司教の教会へと慌しく逃げこむのであった。
 王子エドワードと王女エリザベスをロンドンで出迎えたリチャードは、カンタベリー大司教を使って小ヨークをエリザベスから引き離し、優しい叔父をよそおって子どもたちをだまし、ロンドン塔へ閉じこめてしまう。
 さらにリチャードとバッキンガムは、ヘイスティングスの同士ケイツビーを使って、ヘイスティングがリチャードの王位継承についてどう反応するか確かめた。ヘイスティングスはリチャードが王位につくぐらいなら、首をはねられた方がましだとケイツビーに語る。盟友スタンレーの“猪”(リチャード)には用心しろという忠告をよそに、仇敵である王妃の親族たちの処刑を喜ぶヘイスティングスだったが、王子の戴冠式についての会議のさ中、リチャードの謀略にはまり、断頭台へ引かれていくのであった。
 リチャードとバッキンガムは共謀してヘイスティングスが謀反の張本人だったとロンドン市長に思わせることに成功する。すぐさまリチャードはバッキンガムに市長の後を追わせ、兄エドワード王子も、王自身も皆正統な血筋ではないと市の会議所の面々に吹きこむよう命ずる。バッキンガムの報告を聞き、市民たちの反応の鈍さに焦るリチャードだったが、再度バッキンガムと策を講じ、神父を連れて敬虔な信者をよそおい、バッキンガムの即位嘆願を拒みつづける。市長、市民たちは次第にリチャードたちの芝居にのせられ、とうとう仕方なくという風に嘆願を受け入れたリチャードに、「イングランド王リチャード万歳!」と歓声をあげるのであった。
 王妃エリザベス、ヨーク公未亡人、そしてアンの三人が、ロンドン塔に幽閉されている二人の王子に面会を希望するも、いまや王となったリチャードの命により果たせず、リチャード王妃の冠をもらうため、ウエストミンスターへ急ぐように命令されたアンは、わが身の因果を嘆くのであった。
 王位についてもなお不安の去らないリチャードは、バッキンガムに二人の王子の暗殺を暗に指示するが、バッキンガムはためらいを示す。すぐさまリチャードはケイツビーに暗殺の段取りをつけさせ、兄エドワードの娘エリザベス王女と政略結婚するため、ラトクリフを使ってアン重病説を流布させる。バッキンガムはリチャードにかねての約束の報酬を求めるが、リチャードにすげなくはねつけられる。ヘイスティングスの例もあり、危険を感じたバッキンガムは逃亡を決意する。
 ケイツビーの雇った刺客ティレルによって王子暗殺が果たされ、その知らせを聞き喜ぶリチャードだったが、喜びも束の間、イーリー司教とリッチモンドの連合、バッキンガムの謀反の知らせがはいる。リチャードは先手を打つべく兵を集め、決戦に備える。
 前王妃エリザベスとヨーク公未亡人が二人の王子の死を嘆いていると、マーガレットが現れて自分の復讐が果たされたと満足げに語る。今となってはそんなマーガレットに、敵の呪い方の教えを乞うエリザベスであった。
 ランカスター家のリッチモンドがブルターニュで挙兵し、海上を進んでいるとの知らせが届き、恐怖を覚えたリチャードは、スタンレーがリッチモンドの継父であることから彼に疑念を抱き、その息子ジョージを人質として残していくことを要求する。各地で勃発する叛乱の知らせが入ってくる中で、バッキンガムが捕らえられ、リッチモンドがミルフォードに上陸したという報告を受けたリチャードは、ソールスベリーに向け、慌ただしく出陣する。
 ボズワースの平原に両軍対峙して、決戦に備えている中、リチャードはこれまでに彼の犠牲となった数々の人々の亡霊によって眠りを妨げられ、苦しみ悩む。目覚めたリチャードは良心の苛責と深い孤独を感じる。そして自分自身の自我の危機さえも身をもって思い知るのであった。
 意気上がるリッチモンドとは対象的に、部下さえも信じられなくなったリチャードは、頭上に立ちこめる暗雲にも不安を感じるまでに落ち込んでいた。そこへ合戦開始の知らせとともに、スタンレーが寝返ったという知らせがはいる。しかしその息子ジョージの首をはねている暇さえリチャードにはなかった。奮戦むなしく乗馬を殺され、馬を求め戦場をさまようリチャードをついにケイツビーは思いあまって背後から刺し殺す。そこへ現れたリッチモンドは己れの主に手をかけたケイツビーを激しく責め、リチャードの屍体を晒したいという部下の申し入れにも否定的ながら、彼らの心情を思い許可を与える。高々と掲げられたリチャードの屍体に兵士たちの歓声が上がる。戦勝を収めたリッチモンドは、その場でヘンリー七世として即位し、王女エリザベスと結婚。白薔薇と赤薔薇の合体を誓い、とこしえの平和を神に願うのであった。