空虚な心、孤独な人生、
よりどころを失った一人の女優 カレン・ストーン
行き着いたのは、イタリア ローマ。
そこは彼女の心は対照的に活気溢れ、すべてにどん欲な街。
肉体の深くに秘められていた熱い情熱を、
ローマの太陽が炙り出す。


舞台は第二次世界大戦後のローマ。
旅行中に夫(団時朗)を亡くし、そのままローマに留まることにしたブロードウェイの元女優のカレン・ストーン(麻実れい)。寂しい金持ち女性を見つけては、美しいイタリア青年を紹介し、青年を通じて金を巻き上げるという、ポン引きまがいのことをして生活をしている伯爵夫人 コンテッサ(江波杏子)。そんなコンテッサが、もちろんカレンの存在を見逃すはずもなく、彼女にとびきりの美しい青年を紹介する。しかし、夫とはほとんど性的関係を持つことがなかったカレンは、青年を送り込まれてもそういった興味は示さず、関係を持つ代償に金を要求しようとする下心にむしろ不快感を覚える。コンテッサが送り込んだ3人の青年たちはみな充分な成果をあげることができず、コンテッサはむしろカレンの怒りを買ってしまう。
一方、カレンのアパートの前の広場には、もう一人カレンを狙う男がいた。ボロをまとった浮浪者風情の男娼で、とびきりの美男子だ。その若い男(鈴木信二)は、カレンがそのアパートに越してきてバルコニーに姿を現したときから、カレン一人に照準を定めていた。カレンが外出するとその後をつけ、時に目が合うと卑猥な仕草で誘いをかけたりもする。しかしカレンは、嫌悪とともに魅力を感じながらも、相手にはしなかった。
ある日、カレンとの関係の修復を図り、コンテッサが4人目の青年パオロ(パク・ソヒ)を引き合わせる。伯爵の称号を持つ彼は、すこぶる美しい若者だった。はじめは用心して受け入れなかったカレンだが、やがて食事などを共にするようになり、次第にパオロに惹かれていく。 コンテッサは、付き合い出して2ヵ月経ってもまだお金を取れないパオロを責め、カレンには、パオロはイタリア語でマルケッタと呼ぶ男娼であることを告げる。そして、お金を取られただけで結局関係を持てなかった、ある金持ち女の二の舞にならないようにと忠告し、パオロがどんな話をしてお金を要求してくるか、その手の内を明かしていく。
その日に久々にパオロと会うと、パオロは悲痛な面持ちでコンテッサの入れ知恵通りの話をして、友人を助けるためにカレンにお金を出してほしいと頼んできた。その話はコンテッサに聞かされた話と全く同じ話だった。カレンは、自分はその金持ち女とは違うのだと言い残し、一人寝室に入ってしまう。パオロはしばし考え、結局寝室へ行き、二人は初めて関係を持つ。
翌朝、新たな人生を迎えたようにバルコニーで微笑むカレンの姿を、若い男がじっと見つめる。
その日以来、カレンはパオロとの関係にどんどんはまっていく。友人の劇作家クリストファー(今井朋彦)がローマまで訪ねてきて、カレンのために書いた新作でブロードウェイへの復帰を促すが、カレンはローマに居たいがために断ってしまう。
また、若く見せようと髪を明るい色に染めたり、華美な宝石や衣服で自分を飾り立てるようになる。その姿は、むしろグロテスクに見えた。
しかし、パオロにぞっこんのカレンだが、パオロのために高級なスーツ一式を仕立てたりはするものの、いっこうにお金を支払う気配はない。生活に窮したコンテッサは自らカレンのもとへお金の無心に行くが、思うような額を得ることができず、苛立つばかり。お金を持ってこないパオロを責め、カレンよりもお金になりそうな若い女優を紹介しようと持ちかける。即答しないパオロに、カレンを相手にしているなんてローマ中の笑い者だと言い、早くなんとかしないとパオロも落ちぶれていくと警告する。
それでも、カレンとの関係を続けていたパオロだったが、ある夜、カレンの若い女性への嫉妬から、二人は言い争いをする。そしてコンテッサが連れてきた新しいカモである若い映画スターの登場を機に、パオロはついに別れ話を持ち出す。約束したのに友人を助けるお金を出してくれなかったとカレンをなじり、50歳の女性と自分のつきあったのは、金のためだけだと言い放つ。
二人の別れは決定的なものとなり、パオロは荷物をまとめてカレンのアパートを出て行く。
一人になったカレンは、ある決意をする。カレンはアパートの鍵をハンカチで包み、バルコニーから若い男の元へ落とす。常にカレンの後をつけ、アパートの近くに潜み、カレンを見続け、求め続けてき若い男。カレンに照準を合わせてからは一切客を取らなかったために、どんどんやせ細り、ひどい状態になっていた若い男。彼は、ついに自分の時が来たと身震いし、鍵を拾い、ゆっくりとアパートの中へと入って行くのだった。
主な登場人物
■カレン・ストーン/麻実れい
アメリカ人の女優。50歳。たいへんな美女として知られるが、容貌が衰え始めている。ゴージャスで裕福。劇の進行と共に退廃を深める。

■コンテッサ(女伯爵または伯爵夫人)/江波杏子
イタリア人貴族。60歳から70歳。売春の斡旋をしている。年輩の女性に若くハンサムな男を売るのだ。抜け目なく、冷酷。堕落した己を、見せかけの暖かみで繕っている。

■ミスター・ストーン/団時朗
60代。小太りで裕福、地味で素朴。気が優しく、妻にぞっこんであり、女優の仕事をしている時でもしていない時でも、その最大の崇拝者であり続ける。体を壊しているが、妻に心配させたくないと云う一心で、それを認めようとしない。心の広い、親切な男。

■クリストファー/今井朋彦
アメリカ南部出身の作家。40歳から50歳。この戯曲のナレーターであると同時に、登場人物でもある。テネシー・ウィリアムズがモデル。愛想がよくて社交的。詩人であり、意地の悪いジョークを楽しむという一面も持ち合わせる。ミセス・ストーンの大の親友。

■パオロ/パク・ソヒ
30代前半。ハンサムで体格のよいイタリア人で、本人曰く伯爵らしい。戦争によって没落し、今ではジゴロに成り下がっている。男であろうと女であろうと、自分を一番高く買ってくれる相手に身を売っている。良心と云うものが欠落しているのか、全てにおいて自分のために行動する男。とうが立ってきており、よって少々焦り始めている。

■若い男/鈴木信二
20代。非常にハンサム。非常に貧しく、孤独である。ぼろをまとっており、もしかして狂人かも知れないが、はっきりとは描かれない。ミセス・ストーンにとりつかれ、ストーカーと化して彼女に付きまとう。不吉なセクシュアリティをたたえる男。言葉を発さない。戯曲の中で一語だけ言葉を発するが、それも聞き取れない。

■エンジェル・ハンター/若いハリウッド女優。
■マルコ/ルチアーノ/ロレンツォ 若く美しいイタリア青年。男娼。
■ルシンダ/カレンのアシスタント。
■フランチェスカ/カレンのアパートの女中。