■ 第一幕
結婚式の日、夫たる国王を眼前で暗殺された王妃は、以来十年、城から城へと渡る旅に日々を費やし、人前に決して姿を見せる事がなかった。亡き国王の喪に服する一途な思いだけでなく、形式に縛られた宮廷の作法や生活への厭(いと)わしさが、王妃をさらに都から遠ざけるのだ。身辺には王の旧友で王妃に密かな思いを寄せるフェリックス公爵と、読書係のエディット、そして聾唖の黒人従僕トニーが仕えるのみ。その上、エディットは王妃の国政への復帰を懸念する皇太后一派が、動向を探るべく送り込んだ手駒であった。自殺することもかなわず、ただ死を望みとする生活。
そんな陰謀と死の影に囲まれた王妃の日常が、突然の侵入者によって覆される。激しい嵐の夜、亡き国王との晩餐をしつらえた王妃の寝室に、国王と生き写しの若者が飛び込んできたのだ。とっさに若者をかくまう王妃。そこへエディットが現れ、“王妃暗殺を企てたものが、城内に侵入した”と告げる。その者は王妃が高く評価した、王妃自身を非難中傷した詩集の作者でもあると。男の名はスタニスラス。詩人アズラエル(死の天使)とも呼ばれている。王妃は彼の素性を知りながら、その身の安全を保障し、さらに暗殺の猶予として3日間を与える。「この3日間のうちにあなたが、私を殺さなければ、私があなたを殺します。」という言葉とともに。

 

■ 第二幕

一夜が明け、昨夜の興奮も冷めぬうちに、城を更なるざわめきが駆け抜けた。王妃が見知らぬ若者を客人として迎えたというのだ。しかも、その姿は亡き国王に生き写し。やがて現れた王妃は、一同に新たに客人がスタニスラス=詩人アズラエルである事。その詩を気に入っていたため、二人は理解しあい今回の逗留を認めた事など申し渡す。


皆を退けた王妃はスタニスラスを呼び、射撃をしながら彼の身の上などについて言葉を交わす。やがて、弾を込めた銃をかたわらに置き、スタニスラスの詩を朗読するように求める。いつでも私を撃っていいと言いながら。だが、スタニスラスは王妃を撃つことができない。それどころか、殺意に変わり、別の感情を抱きはじめていた。
そこへ警視総監フォエーン伯爵が現れる。皇太后の寵愛を受ける彼は、王妃を陥れようと画策する最も信用ならない人物。来訪の用件は昨夜の騒ぎの犯人を捕らえたという報告だった。フォエーンは、反政府主義詩人を山狩りの末捕らえ、犯人は仲間の事をベラベラと自白したなど、偽りを並べ立てる。 伯爵の退室を待って、王妃とスタニスラスは再び向かい合った。語り合ううちに二人の心の障壁はさらに薄くもろいものになっていく。今や同じ想いを胸に抱く者として、二人はその気持ちを打ち明けあう。「あなたが好きです」。さらにスタニスラスの、国と民衆のために都に戻るべきだという励ましが、閉ざしていた王妃の心の扉を大きく開いた。久しく忘れていた希望の光が差し込み、そして、新しい愛と大切な人のために、王妃は都に戻り国を立て直す決意をするのであった。

 


■ 第三幕

都へ出立すべく準備を進めるクランツ城の一行。すべては順調に見えたが、王妃が遠乗りに出かけた間にフォエーン伯爵がスタニスラスに接触する。彼は、折角の王妃の国政復帰もスタニスラスのような不審な人物の存在が明らかになれば、失敗すると脅しをかけたのだ。思い詰めたスタニスラスは、その一途な愛のゆえ、王妃が肌身につけていた自害用の毒をあおってしまう。 愛するスタニスラスの苦しみあえぐ姿を目の当たりにし、王妃はその地位も名誉も捨て、たった一つの愛のために、残酷な嘘をスタニスラスに投げつけた。それは愛する人とともに死ぬという、最後の望みのための哀しい嘘だった。