今なお世界中で愛され続けているアンデルセンの実像は、童話作品の陰に隠れ、あまり知られていません。アンデルセンは、童話156編のほかに、自叙伝、小説、戯曲、詩、旅行記など、多岐なジャンルにわたる作品を遺しています。こうした資料から、アンデルセンが童話作家であったと同時に、科学的な批判精神を備えたジャーナリストとして、優れた観察眼を持った実存主義者、情熱的な小説家、また切り絵アーティストとしての顔も持ち合わせていたことがわかります。神経質な心気症で、エキセントリックで多面的と言われた彼の心の中には、夢や憧れ、幻想や悪魔が、常にあふれていたのです。
『アンデルセン・プロジェクト』では、三人の登場人物 ―アンデルセンの童話『木の精ドリアーデ』のオペラ製作を依頼されたカナダ人の作詞家、作詞を依頼したフランスのオペラ劇場のディレクター、そして作詞家が住むパリのアパートの1階の店で掃除係をしているモロッコ人の若者―が交差する現在と、パリ万博(1876年)が開催された当時のパリという二つの時空間を行き来しながら、アンデルセンの実像を浮かび上がらせる挑戦を描いた物語です。
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