シェイクスピア・ソナタ

STORY

男の奏でる悲劇は-----4大悲劇と1つの悲劇。 “毎年ツアーの最後には、この庭先に仮設された劇場で、<4大悲劇>を演じてきた。 しかし、今年は・・・。 客席中央、一家の主の席だけが、いまだ空席のままだ。“ 男の悲劇はココから始まる。

沢村時充(松本幸四郎)はシェイクスピア役者との異名をとっている。『ハムレット』、『マクベス』、『リア王』、『オセロー』の四大悲劇を演目に旅廻りを中心とした活動をして、演劇界でも独自の地位を築いている。彼の率いる一座は彼の先妻との結婚を機に、成長したといえるだろう。長年連れ添った先妻は八ケ月前に亡くなったのだが、女優としても、それぞれの劇で重要な役を務めていた。
一座の成長の裏には、先妻の父たる菱川宗徳の財力があった。菱川家は、石川県能登市で、造り酒屋をして財をなす資産家で、娘婿である沢村時充のため経済的援助を惜しまなかったのだ。
一座は、年に一度の旅廻りの最後には必ず石川県能登市を訪れ、菱川家の広い庭先で,四大悲劇を演じることを常としていた。それは地元民の楽しみであり、菱川宗徳の誇りとするところでもあった。そのために菱川家では、毎年その時期になると、庭に私設の劇場を設置して、一座を待っていたのだ。
が、今年の公演には、沢村時充の妻が、すなわち菱川宗徳の娘がいない。しかも沢村は、妻が亡くなって一年にもならないのに、一座の二番手女優だった松宮美鈴(緒川たまき)と結婚し、言ってみれば、先妻の後釜に座らせていたのだ。
沢村時充にとって、この度の能登行き、そして菱川家公演は、少なからぬ緊張を強いられるものではあった。沢村たちを一見暖かく迎えた菱川家ではあったが、沢村の先妻の妹である夢子(伊藤 蘭)や、菱川家の入り婿として、夢子とともに造り酒屋<能登舞>を副社長として切り盛りする友彦(高橋克実)の心中が穏やかなはずはなかった。
それは沢村時充と先妻との息子である一座の若手男優・沢村美介(長谷川博己)にとっても複雑であり、一座の中堅俳優・二ツ木 進(豊原功補)、山田隆行(岩松 了)、横山 晶(松本紀保)たちの思いもそれぞれである。
菱川家の客間の正面にはテラスに出る開き戸があり、そのテラスは、広い庭に面している。その庭にある仮設劇場で公演は行われる。
かくして、表向き平静を装って公演は幕を開けたが、菱川家の長たる菱川宗徳が座るための客席中央の席だけがぽっかり空いたままであった。沢村はもちろん一座の面々は、この段になっても宗徳が現れないことが来ないことが気が気でならない。

果たして一座は、毎年恒例のこの地での公演を無事終ることが出来るのか、そして一座は例年のように幸せな夏の終わりを迎えられるのであろうか・・・。