INTRODUCTION

夢の世界に飛び込み、連なる空想(イメージ)に身をゆだねて下さい。心おどる驚きの旅が、きっとあなたを待っているはずです。「忘れな草」2014日本公演によせて ーフィリップ・ジャンティー

紙や布などのありふれた素材、不思議な魅力を持った人形、
ダンス、マイム、マジックを駆使して舞台空間に生命を吹き込み、
他に類を見ないステージアートで世界の人々を魅了してきた舞台の魔術師・フィリップ・ジャンティ。

彼が1993年日本初演の傑作に新たな息吹を吹き込み完全リニューアル。
北極大平原での“歌”というエレメントとノルウェーの役者によって、生まれ変わりました。

巨大な冬景色の中、雪ゾリに乗った夢の配達人たちが集めているのは、死んでしまった“思い出”のかけら。
やがてその思い出が目覚める時、一生忘れない夢旅行がはじまる・・・

彼らが紡ぎだす思い出のコラージュによってひとりの女性の生涯を浮かび上がらせる。

観客を欺く鮮やかなトリック、人間と人形とが混じり合う不思議で幻想的な空間。
舞台上に立ち上がる想像を超える世界が今、幕を開けます!

 創立41年を迎えたカンパニー・フィリップ・ジャンティ(CPG)は、この秋14回目の来日を果たす。ダンス、マイム、人形、映像が溶け合う舞台は、まるで不思議な世界を飛び回る魔法のじゅうたん。愉快な仕掛けに歓声をあげ、神秘的な効果に息をのみ……次は何が出てくるか、予想もつかない。観客をわくわくさせるステージは、国境を超えて愛されている。

 『忘れな草』の幕が開いたら、雪の中で思い出をさがす男とともに、異次元の旅に出かけよう。ステージで弾むのは、初来日のノルウェーの若いパフォーマーたち。力強いダンスと歌を披露する彼ら各人が、自分とそっくりの人形と共演するシーンは、まばたきを忘れさせる。どっちが人で、どっちが人形? また、人間と同じ身長の「猿」がドレスを着て登場するが、コミカルな「彼女」は笑いを誘いながら、ほろ苦い気持ちも呼び起こす。

 今回の作品に流れるテーマのひとつが、女性の成長。幼い少女、思春期、成熟した大人。これらの三段階で味わう喜びや恐れが、パフォーマーとオブジェによって細やかに描かれる。目も耳も喜ばす舞台は、綺麗なだけではなく、心の奥に潜むさまざまな欲望も映しだす。人間のダークサイドを面白い表現に料理する手腕も、フィリップ・ジャンティならではの魅力なのだ。

文:桂 真菜(舞踊・演劇評論家)